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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)37号 判決

一 原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。

1 各引用例の誤認の主張について

(一) 原告は、引用例二記載の技術が実施不能であることを前提として、その技術は自然法則にもとり、記載された作用効果を奏することができないものであつて、この点に関する審決の認定は誤りであると主張する。

(二) 成立に争いのない甲第七号証によれば、引用例二には、「上記の特性を有する金型において、中空屈曲物品の適当に円い内面凹部と一致させるのに適した改良内型を提供するのが本発明の目的である。」(第1欄二五ないし二九行)、「この目的は、本発明に基づく金型において達成される。該金型において、分離自在な内型はそれぞれ分離可能な補助的分節内型部品を有し、しかして該内型部品は成形中にはそれらの組み合わせ内型内において互いに連接し、しかも該内型部品は各々連接したとき成形物品のキヤビテイー内の内側の丸くて凹型の曲面壁部に一致する弧状面を有し、さらに、該内型部品は、それらの組み合わせ内型が成形された物品の空洞から引き抜かれるときに、該内型部品は組み合わせ内型から分離可能でありかつ可動であるから、組み合わせ内型から完全に引き離されるが、この場合該内型部品は組み合わせ内型の他の部分に連結されているので動きを制限される。」(第1欄三〇ないし四一行)、「図面(別紙図面(二))を参照して説明すると、例示してある射出成形品は弧状部分を有する曲管である本物品の縦断面において凸部分1は弧状であり、これに対応する凹部分2は凸部分によつて形成される弧状部分と同心的であるから、部分1及び2の間の空洞を通る半径方向断面積は一定であつて、曲管の円筒端部3内に挿入するようになつている管4の空隙に等しく、端部3は管4の空隙とその壁厚を加えたものに等しい空隙を有する。」(第2欄四ないし一五行)、「内型7と8は、互いに接合できるようになつた斜切断した端面9及び10と、内型8上の可動部分13と内型7上の可動部分29とともに、曲管部分1と2の間のキヤビテイーに一致するようになつた弧状部分11と12とを有する。面14と30は、第5図に示す成形位置で曲管の凹部2の内曲面に一致するようになつている。」(第2欄二九ないし三八行)、「各部分が第5図に示す成形位置にともに移動したときに、本発明に基づく物品1ないし3は金型内で成形され、その後で内型7と8は、第6図に示されるように、金型から引き出され、内型部品13と29が内型8と7に対して移動し回動し、そして、そのようにして完全に成形された物品から取り出すことができる。」(第2欄五二ないし五九行)との各記載があることが認められる。右各記載によれば、引用例二には、弧状の湾曲部分を有する管継手を製造するに際して、弧状の湾曲部分とこの端部に形成される管径のより大きい接続部とを、金型である外型に対して直線方向に引き抜きうる内型7、11及び8、12(接続部と大径側湾曲部とに相当する部分に対応する型)と、前記内型を直線方向に引き抜いた後で、その引き抜き動作に連動して回動しながら引き抜きうる内型部分13及び29(小径側湾曲部に相当する部分に対応する型)とによつて、同時に製造しうる装置が示されているということができる。

(三) ところで、右甲第七号証によれば、引用例二には右(二)に記載した装置を示す図面として、第5図及び第6図(別紙図面(二)第5図及び第6図)が記載されていることが認められるが、これらの図面と寸法の割合まで正確に一致するようにして内型を作製すると、原告主張のとおり、大径側湾曲部分の内型11、12を管継手の弧状湾曲部から引き抜くことができないことは、その構造上明らかである(この点については被告も争つていない。)。

しかしながら、元来、明細書に添付される図面が、明細書に開示された発明を説明し、これを実施するに有効な図面であれば十分であり、必ずしも設計図面のように正確な寸法割合などまで要求されるものではないことは、その性格自体から明らかなところであるから、引用例二の場合においても、これに記載された発明が前記(二)に記載された技術思想であると認められる以上、右各図面の寸法割合どおりに内型等を製作した場合にその発明の実施ができないとしても、すなわち、その意味で右発明を例示した右各図面に不備があるとしても、その不備をもつて、引用例二に前記技術思想が開示されていることを否定し、かつ、引用例二の発明を実施不能のものと断定するに足りる程の瑕疵とすることは相当でない。

そして、この図面の不備は、引用例二の技術思想を実施するにあたり、直線方向に引き抜くための内型7、11及び8、12とその後回転しながら引き抜くための内型13及び29との大きさ及び形状を適宜選択し、例えば、後者の内型を管径の1/2以上とし、前者の内型を原告のいう残余部を設けないで湾曲部が直線接続部に連続するように設計するなどのことにより、比較的容易にこれを解消することができるとみるのが相当である。引用例二に前記技術思想が開示されている以上、右の程度の設計をすることは、原告の主張するように類推困難性を伴うものとみることはできない。

(四) 以上のとおり、引用例二記載の図面に前記のような不備があるとしても、引用例二に開示された技術思想は明らかであり、また、その図面の不備も右技術思想の範囲内において適宜修正変更し、これを解消して右技術思想を実施することができるのであるから、引用例二記載の技術が実施不能であることを前提とする原告の主張はすべて採用できない。

(五) なお、原告は、引用例一記載のものは湾曲部内型と残余部内型とだけで構成されているとし、これに接続部などを形成する分割内型があるとした審決の認定を誤りである旨主張するが、仮りに、「接続部」などの用語の使用に関連して、審決の認定に原告主張のような誤りがあるとみられるとしても、前記審決の理由の要点によれば、審決は、引用例一を、弧状湾曲部と原告主張の接続部及び残余部(接続部の一つは切削加工が必要)を持つ管継手を製造する装置において、一個の回転する弧状湾曲部を形成する湾曲部内型と二個の直線的に動く湾曲部以外の部分などを形成する分割内型とで構成することが、本件発明の特許出願前に周知であつたことの一例として挙示しているものとみることもできないではないばかりでなく、前記甲第二号証によれば、審決も指摘しているとおり、本件特許の明細書にも、従来技術として右周知事実は明記されているものであるから、この点に関する審決の認定には、結論に影響を及ぼすべき誤りのないことは明らかであり、したがつて、原告の右主張も失当といわなければならない。

2 容易推考性に関する主張について

成立に争いのない甲第九号証の一ないし三及び甲第一〇、一一号証によれば、本件特許の出願後に、原告主張のとおり、本件発明と同様な装置について実用新案の登録出願があつたことは認められるが、何件かの実用新案登録出願があつたとしても、直ちにその出願時に出願にかかる考案が容易にできなかつたとすることはできず、右出願の事実は、本件発明がその特許出願時に公知事実から容易に発明できたか否かの判断に影響を及ぼすべきものとすることはできないから、原告の右主張もまた理由のないものといわなければならない。

以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、審決にはこれを取り消すべき違法はないとすべきものである。

三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

所要の管継手の外面形状に一致した内面を有する外型と、右管継手の湾曲部分の内面形状に一致した外面を持ち前記外型内へ挿入される湾曲部内型と、該湾曲部分に連続するこれより大径の接続部分の内面形状に一致した外面を持ち前記外型内へ前記湾曲部内型に隣接して挿入される接続部内型と、前記管継手の残余部分の内面形状に一致した外面を持ち前記外型内へ挿入される残余の内型と、前記接続部内型をモールドされた管継手から該内型の中心線方向の直線運動によつて離脱させる接続部内型引抜き手段と、前記湾曲部内型をその湾曲の中心の周囲の旋回運動によつて前記モールドされた管継手の湾曲部分から前記接続部内型の退去した空間へ向つて離脱させる湾曲部内型引抜き手段とを有する弧状湾曲部分を持つた管継手の製造装置(別紙図面(一)の第3図及び第4図参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

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